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神戸地方裁判所 昭和53年(わ)196号 判決 1979年2月22日

本籍

兵庫県尼崎市西難波町五丁目一三八番地

住居

同県同市同町五丁目八番六号

ゲーム販売業

石井辰登こと石井登

昭和一六年一〇月二〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は検察官吉岡卓出席のうえ審理して次のとおり判決する。

主文

被告人を判示第一、第二の罪につき懲役三月および罰金四〇〇万円に、判示第三の罪につき懲役三月および罰金二〇〇万円に処する。

右各罰金を完納することができないときは金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から二年間右各懲役刑の執行を猶予する。

右各猶予の期間中被告人を保護観察に付する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、尼崎市西難波町五丁目八番六号自宅などにおいて、数字合せ遊技機の設置、販売及び喫茶店経営を業としていたものであるが、所得税を免れようと企て、

第一、昭和四九年分の実際の所得金額は四、六一六万三、六五八円これに対する所得税額は、二、二四一万八、八〇〇円であるのにかかわらず、収入金の一部を除外し、よって得た資金を無記名定期預金とするなどの方法により所得を秘匿したうえ、同五〇年三月一五日西宮市江上町三番三五号所在の所轄西宮税務署において、同署長に対し、所得金額が、三〇三万七、六〇九円これに対する所得税額が二一万七、七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により所得税二、二二〇万一、一〇〇円を免れ、

第二、昭和五〇年分の実際の所得金額は二、三八八万九、五七三円、これに対する所得税額は八六四万四、三〇〇円であるのにかかわらず、収入金の一部を除外し、よって得た資金を無記名定期預金として所得を秘匿したうえ、右所得税の申告期限である同五一年三月一五日までに、尼崎市西難波町一丁目八番一号所在の所轄尼崎税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで徒過し、もって不正の行為により所得税八六四万四、三〇〇円を免れ、

第三、同五一年分の実際の所得金額は三、二〇八万九、二一四円、これに対する所得税額は一、二九六万三、四〇〇円であるのにかかわらず、右同様の不正手段を講じたうえ、同五二年三月一四日右同税務署において、同署長に対し、所得金額は一三七万九、二二六円、これに対する所得税額は無い旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により所得税一、二九六万三、四〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の検察官に対する供述調書全通

一、被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書全通

一、伊藤恒一の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、国税査察官ないし大蔵事務官作成の査察官調査書計八通

一、大蔵事務官作成の現金預金有価証券等現在高検査てん末書および同確認書計三通

一、飯塚淳一、福永徹、久保田恵三、村井忠、楢原敬親、竹田進一各作成の各確認書計九通

一、西尾勝成、冨田茂、村井忠、志摩光枝、都築英之、田中良典作成の各取引内容照会回答書

判示第一事実につき

一、大蔵事務官作成の昭和四九年分所得税申告書写に関する証明書

一、大蔵事務官作成の昭和四九年分脱税額計算書(検甲3号)および脱税額計算書説明資料(検甲87号)

一、高津信和、松下森作成の各取引内容照会回答書

判示第二、第三事実につき

一、吉田尚男作成の確認書

一、木村元夫、吉田治郎作成の各取引内容照会回答書

判示第二事実につき

一、大蔵事務官作成の昭和五〇年分脱税額計算書(検甲4号)および脱税額計算書説明資料(検甲88号)

判示第三事実につき

一、大蔵事務官作成の昭和五一年分所得税申告書写に関する証明書

一、大蔵事務官作成の昭和五一年分脱税額計算書(検甲8号)および脱税額計算書説明資料(検甲89号)

一、美土路彰、高山好郎作成の各取引内容照会回答書

なお弁護人は、無記名定期預金は合法的なものであり、仮名の印鑑を使用しても不正行為ということはできない旨主張するが、被告人がわざわざ無記名定期預金にした被告人の意図やその経緯、その際仮名の印鑑を使用していることなどを考え合わせれば、かかる方法により所得を秘匿して虚偽の確定申告書を提出し、或いはこれを全く提出しないことは、社会通念上、不正行為が積極的になされたものと解して何ら差支えないものというべく、弁護人の右主張は採用できない。

(確定裁判)

被告人は昭和五一年一一月一五日尼崎簡易裁判所で常習賭博罪により懲役一〇月、三年間執行猶予に処せられ、右裁判は同月三〇日確定したものであって、この事実は前科調書によって認める。

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項、(一二〇条一項三号)に該当するところ、各所定の懲役および罰金を併科することとし、刑法四五条後段によれば、判示第一、第二の各罪と前記確定裁判のあった罪とは併合罪の関係にあるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ていない判示第一、第二の各罪につきさらに処断することとし、なお右の各罪も同法四五条前段により併合罪の関係にあるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期および金額の範囲内で被告人を判示第一、第二の罪につき懲役三月および罰金四〇〇万円に処し、判示第三の罪についてはその所定刑期および金額の範囲内で被告人を懲役三月および罰金二〇〇万円に処し、右各罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、判示第一、第二の各罪については情状により同法二五条一項を適用し、判示第三の罪については前記確定裁判の刑の執行猶予中に犯したものではあるが、情状特に憫諒すべきものがあるから同法二五条二項を適用し、この裁判の確定した日から二年間右各懲役刑の執行を猶予し、なお判示第一、第二の罪については同法二五条の二第一項前段により、判示第三の罪については同法二五条の二第一項後段により、右各猶予の期間中被告人を保護観察に付することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺田幸雄)

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